2018/09/28

【ジャパンハート 神白先生のライフストーリー】離島からつながる国際協力への想い,カンボジアで目指す医療と医学教育とは?

 

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和田 武(わだ たけし)
    ■放射線科専門医
    ■がん研有明病院画像診断部医員/聖路加国際病院放射線科非常勤医/千葉大学大学院医学研究院 画像診断・放射線腫瘍学大学院生/アンター株式会社医師統括部
    ■2016年度聖路加国際病院放射線科チーフレジデント
    ■第101回北米放射線学会 Cum Laude 受賞
    ■画像診断.com
    ■臨床(画像診断・IVR),研究,執筆,ホームページ運営,医師のコミュニティ形成などの活動を行っています.画像診断に関することなら何でも,ご相談ください.

 学生時代から国際協力に憧れていた神白麻衣子先生.離島医療を経て,今も発展途上国での医療に貢献し続ける神白先生のライフストーリーと国際協力への想いを語って頂きました.

 これは、2018年9月8日(土)にデジタルハリウッド大学大学院で開催された第6回 United Medical Leaders Tokyoのゲストの先生を紹介するインタビュー記事です。最後には当日のご講演内容も紹介します.

NPO ジャパンハート理事
熱帯医学・プライマリケア医

神白 麻衣子先生

離島からつながる国際協力への想い,カンボジアで目指す医療と医学教育とは?

1. NPO ジャパンハートでの仕事〜現地医療施設で診療、教育、連携活動〜

ー 現在のお仕事の内容を教えて下さい.

 特定非営利活動法人ジャパンハートのカンボジア医療・保健活動の責任者であり,1ヶ月のうち3週間ほどは,カンボジアにあるジャパンハート医療センター(ASIA Alliance Medical Center)で総合診療医として臨床業務に携わっています.

 カンボジアでは常駐している日本人医師やカンボジア人医師のコンサルトを受けたり,教育や指導を行うことが多いですが,もちろん自身での診療も行っています.

カンボジアには2018年に新たな病院 (ジャパンハートこども医療センター)が建設されたので,こちらの病院運営や近隣の病院との調整役としての業務もこなしています.

月に一度日本に帰国した際には,ジャパンハートの理事として,カンボジアやミャンマー,ラオスなどの事業の運営を行っています.帰国した際には日本のクリニックで外来診療も行っています.

<NPOジャパンハート >

2. 国際医療協力を志したきっかけとは〜学生時代のサークル活動「世界医療を考える会」〜

ー 国際医療協力を志したきっかけとは?

 国際協力やりたい,と明確に意識したきっかけはないのですが,高校は自由な校風で国際社会への関心を育てる校風だったので,大学では国際協力について学べる学部に行こうと思っていました.

そんな時に,高校の地理の先生が「国際協力するなら手に職をつけないとダメだよ」とアドバイスをくれたんです.しっかりと自立した職業で,海外で現地の方々に一番役に立つものはなにか?と考えたときに医療だ! と思い立ち,医師になって国際協力をしようと思いました.

 医学部4年生の時に「世界医療を考える会」というサークル活動の一環でフィリピンのセブ島に行き,病院を見に行ったり,春休みに Study tour というイベントでタイ北部の少数民族の村に行きました.

タイの大学生のワーキングキャンプに日本人が混じって参加したんです.この村には水道がなく,水は片道1時間ほど離れた井戸から汲んでこなくてはいけない状況だったので,井戸まで水くみに行かなくてもすむように水道のパイプを引っ張ってきました.この時が初めての国際協力参加でした.

 次の年はミャンマーに行きました.ミャンマーでは田舎の病院に行ったりしたんですが,薬も全然なく,栄養失調の子供があふれている状況でした.当時軍事政権下だったミャンマーでは途上国の医療を目の当たりにし,衝撃を受けましたね.

3. 沖縄県立中部病院で初期研修、そのプログラムで離島医療へ

ー 初期研修から離島医療へはどのような経緯だったのですか?

 医学部に入った時から海外に行きたかったので,医療資源が少ないところでも働ける実力をつけたいと思っていました.沖縄県立中部病院にはプライマリケアコースという,2年間のスーパーローテートの後に離島にいけるプログラムがあり,実力をつけるために沖縄県立中部病院で研修することに決めました.

 初期研修は非常に忙しかったですが,同期と一緒になんとか乗り越えることができました.プライマリケアコースは医師3年目には島に医師が自分一人だけ,という状況で離島へ赴くことになりますので,一人で戦える状態にならないと大変だ,ということで,「Colles 骨折きたら呼んでね!」みたいな感じでよく救急外来で患者さんを待ち構えていましたね.

 そんな研修ののち,3年目に赴任したのは西表島で.沖縄の離島のなかでは大きく,診療所が2つあって,島に医師が2人いました.どちらかというと初心者向けの離島ですね (笑).医師としても経験が浅く,童顔だったうえ,西表島に赴任する医師としてははじめての女医だったので,最初の数ヶ月は島民の方々も様子見,という感じでしたが,必死で診療を頑張った甲斐もあってその後は青年会の集まりに呼ばれたり,伝統行事に参加したり,島のコミュニティの中に入りこむことができました.

 これは海外で医療に従事した時にも感じたことなのですが,離島では医療は特別なものではなく,島の普段の生活を支えるインフラの一部なんですよね.例えば郵便局員さんも島には一人だけ,島のみんなが大事な役割を担っていて,医師もその中の一人に過ぎないと感じました.

 だから島のコミュニティから医療だけを切り取って語ることはできないですよね.離島で信頼を得るためにはコミュニティの一員になることが必要なんです.結局義務年限の1年を延長して,計2年間西表島にいましたが,医師生活のなかで一番人生観が変わったなと感じたのはこの時ですね.

 ただ,充実した中でもまだまだ未熟なことも多く,診療の中で学び直さなくてはならない課題もみつかったので,2年の期間を終えて,再び沖縄県立中部病院に戻り,救急部に所属しながら再度スーパーローテートのような形でマイナー科も含めて勉強しなおしました.

 その後に赴任した伊平屋島は1600人の人口に医師が自分一人きりで,上級者向けの離島でしたね(笑).

4. 医師6年目、フィリピンへの医療支援から始まった海外での活動

ー 離島に初心者向けとか上級者向けがあるのは知りませんでした...離島診療からジャパンハートでの国際医療協力への経緯を教えて下さい.

 6年目で沖縄県立中部病院にいる時に,医師としては初めて,フィリピンに医療支援に行ったんです.医療資源が限られているところでは出来ることには限りがあり,一時的な診療しかできないこともありましたが,現地の方々はすごい満足してくれました.

 また,現地で働く耳鼻科の医師 (フィリピン人)は,戦時中にお父さんが日本軍と戦ったらしく,ご自身も幼い頃から日本人に対して敵対心を持っていたそうだったんですが,日本人がフィリピンにやってきて診療してくれたのを見て,日本人に対する認識が変わった,と言ってくれました.

 国際協力でできることは限られているけど,医療の内容だけが大切ではなく,医療を行うこと自体が,歴史や認識を超えて人々の意識を変えることができるんだと感じた瞬間でした.

 そのような経験もあり,海外での医療協力への想いを募らせていたところ,ジャパンハートの吉岡先生 (吉岡 秀人先生: 特定非営利活動法人ジャパンハート 最高顧問/ファウンダー)のテレビ番組を見たんです.

 ミャンマーで働いている吉岡先生の姿を見て,ピンと来ました.ミャンマーには行ったこともあったし,ここで働きたい! と思ったんです.すぐに申し込みをしたのですが,その時にはすでに長期ボランティアの先生がミャンマーにいらっしゃったので,まずは1週間の短期ボランティアにいき,中部病院で長期ボランティアに行けるタイミングを待つことにしました.

 その間にも1ヶ月のうち1週間はミャンマーに行き,残りを日本で診療するという形で往復していましたね.そして1年がたったころ,遂にミャンマーに長期ボランティアとして行くことができました.

 念願叶ったミャンマーでの医師生活は外来をしたり,吉岡先生の手術に入ったりと充実していました.ただ,病院に患者さんが殺到している状態でかなり大変さもありました.ミャンマーという地域で患者さんを診療している中で,熱帯医学の勉強も足りないと感じるようにもなりました.

 そこで,タイのマヒドン大学熱帯医学ディプロマコース(DTM&H)に半年間勉強に行かせてもらいました.各国から熱意のある医師が集まる環境で非常に勉強になりましたし,日本人は私だけだったので日本語を全く使わない環境にまとまった期間いることができ,英語の勉強にもなりました.

 その後は再び、ジャパンハートの活動を継続し,カンボジア事業の立ち上げに携わることができました.また、縁あって長崎大学の感染症内科(熱研内科)で感染症を専門として学ぶこともでき、今はカンボジア医療事業の責任者として,現地での臨床や病院の運営,教育を行っています.

5. カンボジアで医学教育を受けられる施設を作る〜自分の経験を国際社会に還元する〜

ー 今後の目標を教えて下さい.

 カンボジアで臨床や教育を行っていて思うのは,カンボジア人医師には卒後の教育体制が十分整っていないということです.卒後の初期研修や後期研修というシステムは存在せず,それぞれが悪戦苦闘しながら臨床を行っています.

 非常に熱意のある若手医師や優秀な医師も多いのですが,彼らがそのポテンシャルを十分に発揮できる環境が整っていないと感じています.自分は沖縄県立中部病院でよい医学教育を受けて成長することが出来たと思っていますし,自分の受けてきたような教育をカンボジアの若手医師に伝え,彼らが育ち,カンボジアの医療がより発展できるように貢献したい思っています.

 そのためにもいま自分が関わっている施設がまずよい医学教育が受けられるような施設になることが目標ですね.今までは,国際協力という点においては自分がいかに成長して直接貢献できるか,ということを考えてやってきました.これからは自分がうけたことをどうやったら国際社会に還元できるか,ということを考えていきたいす.

インタビューを通じて感じたのは,神白先生の行動力と課題解決能力の高さです.

自身の達成したい目標のために新たな環境に飛び込み,そこで得た課題を次のステップで強みに変えていく,そんなしなやかさを感じます.

そんな神白先生が登壇した,若手医師限定イベント United Medical Leaders (UML) は2018年9月8日(土)に御茶ノ水で開催されました.

このあと当日の講演をレポートが続きます!お楽しみに!

和田 武

当日語られたカンボジアの日常、神白先生の目標と若手医師へのメッセージ

<会場 デジタルハリウッド大学大学院>

ここでは神白先生のライフストーリーに続き,当日の御講演の内容(特にカンボジアでのご活動)について少しだけご紹介します

カンボジア医療センターでの日常

カンボジア医療センターにやってくる患者さんは感染症から外傷,腫瘍まで幅広く,神白先生は内科的治療を行うこともあればちょっとした手技から手術まで入ることがあるそうで,まさに”総合”診療の第一線で活躍されていらっしゃるようです.

カンボジアでは,特に感染症の患者さんが多く,初期に適切な治療を受けていなかったために慢性化し膿瘍を形成することも稀ではないとのこと.

御講演の中では,抗酸菌感染による皮下膿瘍のご経験をお話されておりましたが,日本ではなかなかお目にかかりませんよね.感染症診療をはじめとして,1人の医師として,カンボジアでの臨床経験は非常に貴重な時間になることは間違いないと感じさせられるお話でした.

カンボジアでの今後の目標

御講演の中で登場した小児悪性リンパ腫の患者さんは,聴衆に強い印象を残したのではないでしょうか.

頸部悪性リンパ腫のプレパラートを日本に送って診断し,カンボジアの大病院でなんとか化学療法を行うことが出来ましたが,金銭的な問題から長期入院ができず,自宅にいったん退院したところで感染症にかかりお亡くなりになったそうです.

検温器もなく衛生環境も整っていないカンボジアの自宅では,化学療法によって免疫力の低下した小児患者に致死的な状況が生じることもあるようです.

そういった問題を解決するために,ジャパンハートこどもセンターでは金銭的に負担のかからない範囲で入院を継続しつつ,化学療法を行うことができるような仕組みを整えつつあり,カンボジアのこども達を救うために,今後は小児癌の治療拠点となっていくことも目標とのことでした.

 また,現地でのカンボジア人医師に対する教育も重要な課題です.系統的な卒後医学教育を受けていないカンボジア人医師は,症状に応じて一対一対応の治療になってしまっていることが多く,彼らの充実した卒後教育は神白先生をはじめジャパンハートが力を入れている領域でもあります.ジャパンハートで経験を積んだ若いカンボジア人医師が国内で活躍する日も遠くないかもしれません.

神白先生から若手医師へのメッセージ

 

日本の一般病院で勤務している我々には中々イメージのわかない,発展途上国での医療ですが,神白先生曰く「発展途上国での医療は,日本の地域医療と同じ」とのことでした.

医療とコミュニティは切り離すことができず,コミュニティの中に入り込んでこそ,患者とよい関係を築け,よい医療ができる.

海外医療と地域医療はその面では全く同じで,コミュニティの場所が海外なのか,地域なのか,それとも離島なのか,という違いだけなのだそうです.

そして,日本で我々が common disease として学ぶものは発展途上国でも遭遇することは多く,日本での経験や知識は必ず発展途上国でも役に立つとのこと.

ジャパンハートで働く短期・長期の医師とともに国際協力に従事してくれる若手医師を募集していると仰っていました.カンボジアでの医療に興味が沸いた方はぜひ,ジャパンハートに連絡を取ってみてください.

(インタビュー・文責/和田 武)

デジタルハリウッド大学大学院のお知らせ
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    ■2016年度聖路加国際病院放射線科チーフレジデント
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