2018/09/22

授乳婦への薬剤(プリンペラン)処方とその調べ方, 〜添付文書の見方, 患者説明

 

この記事を書いている人 - WRITER -
柴田綾子(しばた あやこ)
    淀川キリスト教病院 産婦人科/産婦人科専門医/日本プライマリ・ケア連合学会 女性医療・保健委員会(PCOG)メンバー/日本医師会Junior Doctors Network(JDN)スタッフ
    LINEボット(ラッコの妊娠・性相談室 運営)書籍(女性の救急外来 ただいま診断中 執筆)

授乳婦が訴える嘔気嘔吐。
対症療法としてプリンペラン®︎が使えるか、どのように考えたら良いのでしょうか。

この記事は、現場で働く医師同士が相談しあうiOSアプリ “AntaaQA” で実際に行われたやりとりの中から研修医におすすめの選りすぐりの内容を、ご紹介します!

授乳婦の嘔気嘔吐. プリンペラン®︎は使えるか

プリンペランはなぜ授乳婦に使用注意なんでしょうか?

授乳婦の嘔気嘔吐に対して、症状緩和のためにプリンペラン®︎を処方しようとしたのですが、調べてみると「長期的な副作用について十分なデータがないので使用を避けた方がよい、とWHOが2002に勧めている」との記載をUpToDateで見つけました。

15年前の勧告ですが、引き続き使用は控えた方がよいのでしょうか?

初期研修医1年目

私も知りませんでしたが、うつ病のリスク増加などが指摘されています。
[TOXNET] https://www.toxnet.nlm.nih.gov/newtoxnet/lactmed.htm
※この画面からプリンペラン(metoclopramide)を検索

ガスター®︎やナウゼリン®︎は使用できると紹介されてます。
[国立成育医療研究センター/妊娠と薬情報センター:授乳中の薬の影響(医療従事者向け)] https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/druglist.html#safe

柴田綾子

Dr.Shibataの “ポイントレクチャー”

授乳婦へ薬を投与する時に気をつけるべきことはなんでしょうか。添付文書ではなく妊娠と薬情報センターやアメリカ国立衛生研究所で安全に使用できる薬の調査、授乳婦に薬を処方する際の説明方法、各学会の参考資料についてご紹介します。

まとめ

  • 授乳中に内服してはいけない薬は限られている
  • セフェム系やペニシリン系の抗菌薬は授乳可能
  • NSAID(疼痛薬)や酸化マグネシウム(便秘薬)も授乳可能
  • むやみに授乳を止めると乳腺炎のリスクとなる
  • アプリやHPで調べることができる

添付文書は信じない?!

原則として「授乳中に内服してはいけない薬」の数はそれほどありません。日本の添付文書では、「ごくわずかでも」母乳中へ移行する薬は、授乳を避けるように記載されています。しかし実は、母乳へ移行しても影響が少ない薬は沢山あり、それらは内服をしても授乳を続けることが可能です。安全に使用できると思われる薬は国立成育医療研究センターのHPに表でまとめられており(表1)、googleで「薬 授乳」を検索すると上位に表示されます。救急室で迷ったときはその場で検索し、お母さんにもその画面を見せることで安心します。さらに詳しく調べたい人は、アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)のLactMedというサイト(またはアプリ)で授乳と薬の情報が調べられるのでオススメです。

TOXNET

表1. 授乳中に安全に内服できると思われる薬(ごく一部のみ抜粋)

成分名

代表的な商品名

代表的な薬効分類

アセトアミノフェン

カロナール®︎

解熱・鎮痛薬

アモキシシリン

サワシリン®︎、パセトシン®︎

抗菌薬

セファレキシン

ケフレックス®︎

抗菌薬

テオフィリン

テオドール®︎

喘息治療薬

ドンペリドン

ナウゼリン®︎

消化器官用薬

ファモチジン

ガスター®︎

消化器官用薬

センナ・センノシド

アローゼン®︎、プルゼニド®︎

消化器官用薬

硫酸マグネシウム

硫酸マグネシウム

消化器官用薬

*テオフィリンは大量投与で赤ちゃんの癇癪かんしゃくが報告されている

参考:妊娠と薬情報センター:授乳とお薬について | 国立成育医療研究センター

(Access 2017/10/6)

授乳婦に薬を処方する際の説明の方法

多くの授乳中の母親が、薬を飲む際に「飲んだ薬が赤ちゃんに悪影響を与えるのではないか」と心配をします。不要な薬は処方せずに「治療に必要な薬」のみ処方することが原則です。その上で日本産科婦人科学会ガイドラインでは「例外はあるが、授乳婦が服用している薬物が児に大きな悪影響を及ぼすことを示したエビデンスはない」と説明しています。母親が飲んだ薬のどれくらいが児が摂取するのかを表したRID(relative infant dose)が10%以下であれば問題なく、多くの薬がその範囲内にあります。また、授乳した直後に薬を内服することによって乳汁移行量を減らすことができます。授乳中の人へ薬を処方する際は、以下のような説明をおこないましょう。

  1. 母親の治療に必要な薬であることを説明する
  2. 内服した薬が母乳に移行する割合は低く、児への影響は大きくないと説明する
  3. (気をつけるべき点があれば)授乳後に観察するべき点を説明する
  4. 授乳をした後に薬を服用すると移行量が減らせると伝える

3と4は授乳中に内服を控えたほうが良い薬(表2)が治療上必要な際に説明するものなので、通常の薬であれば1と2を中心に説明すれば十分です。

表2. 授乳中に内服を控えたほうがいい薬(一部抜粋)

成分名

代表的な商品名

理由

アミオダロン

アンカロン®︎

 

フェノバルビタール

 

児の摂取量がRID10%以上

プリミドン

 

児の摂取量がRID10%以上

リチウム

 

低体温、チアノーゼ

ジアゼパム

セルシン®︎

児の傾眠傾向、体重増加不良

アロプラゾラム

コンスタン®︎、ソラナックス®︎

Withdrawal symdrome

リン酸コデイン

総合感冒薬・咳止めなど

児のモルヒネ中毒

カルベゴリン

カバサール®︎

母乳分泌低下

経口避妊薬

ピルなど

母乳分泌低下

*Withdrawal symdrome:新生児薬物離脱症候群

妊婦が抗てんかん薬や向精神薬、アルコール、麻薬などを常用し、胎児が胎盤を通して長期間暴露されている場合、出生後に児に離脱症状が起こること。

参考:日本産科婦人科学会 診療ガイドライン 産科編2017

授乳中のプリンペラン®︎の影響は?

さて、質問のメトクロプラミド(プリンペラン®︎)の授乳への影響について調べてみます。添付文書では「授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は授乳を避けさせること」「授乳婦にメトクロプラミド10mgを経口投与した場合、母乳中への移行が認められている」と記載されています。ただし、母乳へ移行しているだけでは、授乳を避ける理由にはなりません。

  • 母乳へ移行し、児の吸収量は10%以下であることが多いが、児の吸収量が多くなることもあり、その場合は児の血中プロラクチン濃度上昇と消化器系の副作用の可能性がある
  • 副作用として産後うつ病のリスクを上昇させる可能性が指摘されているため、妊娠前にうつ病の既往があったり、産後に長期に使用することは避けた方が良い

と記載されていました。国立成育医療研究センターのサイトを見たところ、同じような効用でドンペリドン(ナウゼリン®︎)が授乳中にも安全に使用できる薬を紹介されています。そのため、プリンペランよりはナウゼリンを使用したほうがよさそうだ、とアドバイスすることになります。

もちろん、授乳中はプリンペランを絶対使用してはいけない!ということではありません。使用する際は、児の消化器系の副作用や母体のうつ病リスクなどを説明し、それらの症状が出たらプリンペランの使用を中止することを説明すれば使用できます。

<各学会の授乳と薬についての参考資料>

→降圧薬・抗凝固薬・抗血小板薬の妊娠中・授乳中の使用について表でまとめられている

→腎疾患関連薬(主に降圧薬)で授乳中に禁忌となる薬について解説されている

<コラム> 母乳には沢山のエビデンスがある!

母乳には母親の免疫や抗体が含まれており、乳幼児の体を感染から守る働きをしています。その他にも、児の神経発達、アレルギー疾患の予防、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防などの効果が示されています。授乳をおこなっている母親への効果として、乳がんや卵巣がん、子宮内膜症リスクの低下、骨粗しょう症リスクの低下が報告されています。通常、おっぱいは3~4時間毎に赤ちゃんに授乳するように母乳を産生しており、定期的に授乳をしないと中で固まってしまいます。薬を処方した際に無責任に「授乳はやめておいた方がいいですね」とアドバイスしてしまうと、授乳を止めることで乳汁うっ滞、乳腺炎を発症させてしまうので注意が必要です。

記事で疑問は解決できたでしょうか?

AntaaQAは医師専用のオンライン相談アプリです。
現場で患者さんの診断治療に困った場合は、AntaaQAで他の医師に相談してみませんか。

みんなで一緒に患者さんの診断治療に取り組みましょう。

また、現場により良い知識が届くように、記事を改善しつづけていきたいと考えています。最新論文の追加や加筆修正により、より質を高められる点がありましたら、ぜひAntaa編集部までご一報ください。

<参考文献>

この記事を書いている人 - WRITER -
柴田綾子(しばた あやこ)
    淀川キリスト教病院 産婦人科/産婦人科専門医/日本プライマリ・ケア連合学会 女性医療・保健委員会(PCOG)メンバー/日本医師会Junior Doctors Network(JDN)スタッフ
    LINEボット(ラッコの妊娠・性相談室 運営)書籍(女性の救急外来 ただいま診断中 執筆)
 

Copyright© Antaa , 2018 All Rights Reserved.