2018/09/22

サイトメガロウイルス感染症〜抗原検査の意義, 膠原病領域での考え方, 疑うパターン〜

 

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古矢裕樹(ふるやひろき)
    千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科
    多臓器を侵し、免疫抑制薬が治療の主体となる膠原病の管理には感染症の知識を含めた臓器横断的知識が極めて重要です。エビデンス構築中の分野も多く患者の状況に応じた臨機応変な治療方針を求められることが多いやり甲斐のある領域です。興味のある方、是非一緒に働きましょう。
    代表論文 SAPHO syndrome-like presentation of disseminated nontuberculous mycobacterial infection in a case with neutralizing anti-IFNγ autoantibody. Rheumatology (Oxford). 2017 Jul 1;56(7):1241-1243

免疫抑制状態の患者の診療で, 重要なサイトメガロウイルス(CMV)感染.どのように対応するのが良いのでしょうか.

この記事は、現場で働く医師同士が相談しあうiOSアプリ “AntaaQA” で実際に行われたやりとりの中から初期研修医におすすめの選りすぐりの内容を、ご紹介します!

サイトメガロウイルス感染症〜抗原検査の意義, 膠原病領域での考え方, 疑うパターン〜

SLEなど免疫抑制をかけて易感染性の患者さんでのサイトメガロウイルス感染の治療をする際に、ガイドラインって何を参照していますか?

腎臓内科的には、造血幹細胞移植のガイドラインや腎移植後のガイドラインなどをよく使うのですが、膠原病の先生は何を参考にしているかが知りたいです.

内科3年目

我々も基本的に同様ですが、エビデンスのない分野なのでどのように適応してるかは施設毎、医師毎の差は大きいと思います。

個人的には半量維持の意味はあまりないと思うので副作用がなければ初期投与量のままCMV抗原 C7-HRP陰性化まで使うことが多いです。

そのせいで入院期間が延びてしまう場合はステロイド量や減量のタイミングに応じて陰性化まで治療しないこともあります

古矢裕樹

なるほど。実は今回の症例では、退院前日に判明した症状のないCMV infectionで、3ヶ月も入院してやっと帰れるところに判明したという経緯だったので先生のご意見も参考にさせていただきました。明らかなCMV diseaseは考えられなかったので本人の希望なども兼ねて内服で退院後外来でフォローにしました。

先生のおっしゃるCMV抗原 C7-HRPの陰性化は、正常値の方ですか、それとも一桁ですか?

内科3年目

  あくまで個人的なプラクティスとなりますが、私は早めに終わらせるメリットが医療費以外になければ正常値まで治療することが多いです。

副作用が怪しいときや退院の問題があるとき、さして免疫抑制が強くないときはその限りではありません。

やることが良い、悪いのエビデンスがない領域に関しては限界を知りつつ個々の事例で一番患者のメリットになるだろう、というのを選択するしかないと考えています。色々な考え方があると思いますがどの選択肢も絶対的な正解はないですよね。話はずれますがそこを考えるのが臨床の面白いところだとも思います!

古矢裕樹

これは答えがない質問で、施設によってかなり個人差がありますので、私見を述べます。

まず答えとして役に立つガイドラインはありません。先生のご指摘の通り、多くの人が参考にしているのが、造血幹細胞移植のガイドラインであり、これは一般的に膠原病科医師が見ている患者と比べ、圧倒的に細胞性免疫不全の強い患者をターゲットにしたガイドラインです。よって我々がこれをみながらCMVの治療をすることは、必ず治療のやり過ぎになります。ICU領域でも、CMVのアンチゲネミアは急性期に勝手に上がって、その後勝手に下がっていく、というのはよく知られてきており、CMVが増えてくるinfectionと、治療すべきdiseaseが起きているのは別の話です。

アレルギー膠原病内科

Dr. Furuyaの “ポイントレクチャー”

ここではCMVを疑うべき患者背景、CMV感染(CMV infection)とCMV感染症(CMV disease)の違い、膠原病領域でのCMV診療の考え方、CMV感染症を疑うパターンについて解説します。

千葉大学医学部附属病院 アレルギー膠原病内科  古矢裕樹 

1.サイトメガロウイルス(CMV)を疑うべき患者背景

 サイトメガロウイルス(CMV)幼少期に感染し、体内に生涯潜伏感染しているヘルペスウイルスの一種です。初感染の場合は健常人においてもEpstein-Barrウイルスと同様に伝染性単核球症の原因となりえますが、それ以降問題になることは健常人では極めて稀であり、原則として検査を要することすらほとんどありません。(1)

 一方で、臓器移植・造血幹細胞移植・HIV感染や化学療法中などの高度免疫抑制患者においては潜伏感染していたCMVが再活性化を起こし、肺炎、腸炎、脳炎、網膜炎などの臓器障害を呈するCMV感染症CMV diseaseにより致死的経過を辿りうるため注意が必要であり、日本造血細胞移植学会より「造血細胞移植ガイドライン サイトメガロウイルス感染症第3版」が制定され、インターネットで無料配布されています。(2)

2. CMV感染(CMV infection)とCMV感染症(CMV disease)は異なる〜CMV抗原検査〜

 再活性化の有無と程度を判断する検査として本邦ではCMV抗原検査(C7-HRP法, C10/C11法のいずれか)によりCMV抗原陽性白血球数を調べることが出来ます。 臓器障害などの臨床症状を伴うCMV感染症 (CMV disease)とは別に、臨床症状がなくともCMV抗原陽性となった時点でCMV感染(CMV infection)と判断します。

他の一般細菌感染症とは異なり、CMV感染CMV infection感染症CMV diseaseに移行していなくても宿主の免疫抑制を強め他の細菌や真菌感染リスクを上昇させ、死亡率も上がるとされています。(3)

 そのため、造血細胞移植ガイドラインにおいては週に1回CMV抗原検査で再活性化のモニタリングを行い、臨床症状を伴っていないCMV感染CMV infectionの場合においてもCMV抗原量の推移によってガンシクロビルの増量 / 減量 / 中止を調整することが推奨されています(下記フローチャート参照)

文献(2)より引用

 3. 健常人・集中治療領域でのルーティンでのCMV抗原検査は不要

 繰り返しになりますが、健常人においてCMV抗原を調べる必要性はほぼありません。健常人におけるCMV感染症CMV infectionの報告が少数あることは事実ですが、リスクは極めて低くなります。

 近年、ICUに入室するような重篤な患者においてもCMV抗原モニタリングとCMV抗原量に応じた非症候性CMV感染CMV infectionに対するガンシクロビルの予防的投与が必要なかったことも報告されています。(4)

4. 膠原病領域でのCMV感染症(CMV disease)と考え方

 近年、免疫抑制薬の進捗により、膠原病領域におけるCMV感染症CMV diseaseの合併報告も散見されるようになりました。肺炎、腸炎、脳炎、網膜炎といった重篤なCMV感染症をみることは稀ですが、CMV感染CMV infectionに伴う白血球減少や血小板減少は日常診療でもしばしばです。

 一方で、検査や治療介入に関するエビデンス集積は集中治療領域以上に不十分です。参考にすべき研究も極端に少なく、対応は先述の造血細胞移植ガイドラインを参考にしつつ医師や施設ごとに任されているのが実情であり、このQ&Aのような話題が出てきた背景となります。

5. CMV感染症(CMV disease)を疑うパターン

 現時点では膠原病患者のCMV感染CMV infectionに対してどう対応するかのコンセンサスはありませんが、少なくともCMV感染症CMV diseaseの場合は治療すべきという意見に異論はないでしょう。

 それでは、CMV感染症CMV diseaseを疑うのはどのような場合でしょうか。まずはCMV感染症CMV diseaseにおける全身症状と侵しうる臓器病変を頭に入れることが大事です。(表1参照)

表1

 

臨床所見

診断

CMV肺炎

呼吸器症状

BALや生検肺組織におけるPCR・病理診断。

CMV胃腸炎

消化管潰瘍

生検組織におけるPCR・病理診断。

CMV抗原血症陽性率30%のみであり注意が必要。

CMV肝炎

肝逸脱酵素上昇

生検組織におけるPCR・病理診断。

CMV網膜炎

視覚異常

眼底所見のみでも診断可能。

前房水・硝子体液におけるPCRも有用。

CMV脳炎 / 脊髄炎

脳炎 / 脊髄炎症状

髄液におけるにおけるPCR・病理診断。

共通する全身症状

発熱、倦怠感、関節痛、筋痛、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少)、異型リンパ球減少、低蛋白血症

その他

CMV膀胱炎、CMV腎症、CMV膵炎などの報告あり。

 いずれにしても現時点でどちらが良いかのエビデンスはなく、適切なタイミングでの検査・治療を行うことが何より肝要となります。現代医学においてこのように白黒がつかない状況は数多くあります。

 大事なのは現在までのエビデンスの妥当性と限界を把握しつつ、個々の事例で一番患者のメリットになるであろうことを考え選択し続けることだと思います。どの選択肢も絶対的な正解はないですが、そこを考えるのが臨床の面白さではないでしょうか。

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6. 参考文献

  1. J Intern Med. 2006 Mar;259(3):219-46.
  2. 造血細胞移植ガイドライン サイトメガロウイルス感染症 第3版
  3. Am J Transplant. 2009 Nov;9(11):2453-8
  4. JAMA. 2017 Aug 22;318(8):731-740
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古矢裕樹(ふるやひろき)
    千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科
    多臓器を侵し、免疫抑制薬が治療の主体となる膠原病の管理には感染症の知識を含めた臓器横断的知識が極めて重要です。エビデンス構築中の分野も多く患者の状況に応じた臨機応変な治療方針を求められることが多いやり甲斐のある領域です。興味のある方、是非一緒に働きましょう。
    代表論文 SAPHO syndrome-like presentation of disseminated nontuberculous mycobacterial infection in a case with neutralizing anti-IFNγ autoantibody. Rheumatology (Oxford). 2017 Jul 1;56(7):1241-1243
 

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