2018/09/22

乳幼児の転落/頭部外傷〜PECARNガイドライン、頚椎損傷、虐待、Shared Decision Making〜

 

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高寺 侑(たかでら たすく)
    ■■小児科専門医/エディンバラ大学大学院小児救急医学課程(2018年9月から)/総合病院国保旭中央病院小児科非常勤医師/一般社団法人こどものみかた会員
    ■■分担執筆HAPPY!こどものみかた 日本医事新報社, 2016小児症候学89 原著第2版, 東京医学社, 2018

救急外来に電話でよく問い合わせがある乳幼児が転落. 重症頭部外傷をどのように見極めれば良いのでしょうか。

この記事は、現場で働く医師同士が相談しあうiOSアプリ “AntaaQA” で実際に行われたやりとりの中からプライマリケア医におすすめの選りすぐりの内容を、ご紹介します!

乳幼児の転落. 重症頭部外傷のリスクは?

小児の転落のトリアージについての質問です。

しばしば『○○歳の(もしくは○○ヶ月の)子供が○mから落ちたが病院行った方が良いか?』という相談を受けます。

こういったケースの場合、目立った外傷がないことがほとんどだと思うんですが、転落や墜落があった場合に医療機関を受診する目安などありますか?

救急科

しばらく様子を見て特に頭部にぶよぶよしたような血腫を触れなくて、機嫌もよいままであればそのまま経過をもていてよいと思います。また意識もしっかりしていれば数回嘔吐がみられるだけであってもPECARNの研究では重症頭部外傷のリスクが低いことがわかっているため経過観察で問題ないと思います。

泣き止まない(小児では意識障害に当てはまります)とか、元気がないときには受診をすすめるほうが安全だと思います。

年齢はおおむね乳児かどうかで判断して、1歳未満、とりわけ生後半年未満では1m以下の転落でも頭蓋骨骨折や頭蓋内出血(いずれも手術適応にならない程度がほとんどですが)を経験しますので受診をすすめています。

高さは書いた通りおおむね1m以上か1m以下かを目安にはしていますが、これもあまり問診では正確ではないことも多いため、患児の現在の症状を1番参考に受診を決めています。

また、その場で受診を決めなくてもよいので、「しばらく(数時間)家で様子を見て、もし〇〇な状態になったら受診してください」など自宅での経過観察タイムを設けるのも有用です。

高寺 侑

Dr. Takaderaの “ポイントレクチャー”

ここでは小児転落、頭部外傷のPECARNガイドラインや、経過観察時間の有効な使い方、頚椎損傷や虐待の可能性、Shared Decision Makingについて解説します。 

兵庫県立こども病院 小児集中治療科 高寺侑(Tasuku Takadera)

1. PECARNガイドライン

PECARN(Pediatric Emergency Care Applied Research Network)が発表したガイドラインは、現時点で最も妥当性が証明されているものです。このガイドラインの大事なポイントは、「ガイドラインは医師の臨床判断をサポートするために存在する」ということです。基準にあてはめてCTが推奨されていなくても、現場で臨床的にCTが必要と考えた場合には検査を行ってもかまいません。

また、GCS 13点以下の意識障害はこのガイドラインの対象ではありません。小児では「泣いている」という所見が意識障害を表していることもありますので注意が必要です。

<PECARNガイドライン 文献1から引用・改変>

(重症頭部外傷:外傷性脳損傷による死亡や、外科的介入を要する外傷性脳損傷、24時間以上の挿管人工呼吸管理、2泊以上の入院)

2. おすすめのウェブサイト

『ガイドラインなんて覚えてないし、調べる時間がない』なんてときにおすすめのウェブサイトがあります。

項目を選択していくと重症頭部外傷の確率とCT撮影の推奨が表示されます。また、Decision Aidという用紙を元に、家族に説明することもできます。

<おすすめウェブサイト リンク> 

3. 経過観察時間を有効に使おう

最初の段階ですぐに結論を出さず、経過観察してから方針を決めることもできます。

2011年のPediatricsには、経過観察を有効に使えば不要なCT撮影を減らせることが報告されています。外来で数時間状態の変化がないか観察することで、保護者にも安心してもらえることが多いです。

医療者側も症状の推移が把握できます。「1時間様子をみて嘔吐を繰り返すようになったらCTを撮影しようと思います」や「2時間様子をみて今と変わらなければお家に帰ってもらおうと思います」というように、時間を決めて先のマネージメントプランまで説明すると、保護者も安心して救急外来で過ごすことができます。

4. 頚椎損傷の可能性

転落した場合、頚椎損傷の可能性も考える必要があります。小児の場合は、骨に脆弱性きたすような先天性疾患の有無を確認しておくとよいです。例えば21トリソミーでは頚椎損傷をきたすリスクが高いため、必ず頚部の診察もしましょう。

5. 虐待の可能性は?

受傷機転のはっきりしない頭部外傷では必ずAHT(abusive head trauma)の可能性も考えましょう。病歴では、保護者が述べた言葉通りにカルテ記載をすることがポイントで、推測での記載は避けるべきです。また、家族構成や周産期歴、健診やワクチンを受けているかが一目でわかりますので、母子手帳も見せてもらうとよいです。

6. 説明と”Shared Decision Making”

検査の有無に関わらず、帰宅指示を紙に記載して保護者に渡すことが大切です。例えば、「翌朝までに何度も吐くようになった時や、歩き方が変な時、不機嫌が続く時、とても頭を痛がる時、様子がいつもと違う時にはもう一度受診してください」というように具体的に説明し、受診の閾値は低くした方が、症状に変化があったときにすぐに連れてきてもらえます。

ここで”Shared Decision Making”という考え方を紹介します。これは、PECARNガイドラインをはじめとするエビデンスや診察の結果、医師としての考え、方針のメリット・デメリットを患者と共有したうえで、患者と一緒に方針を決定することをいいます。

例えば、「嘔吐以外に症状がなく元気そうなので、現在までの研究では重症頭部外傷の確率は100分の1以下だと考えられます。CTを撮影した場合、頭蓋内出血を見逃しにくくなりますが、被爆のリスクがあります。CTを撮影しない場合、頭蓋内出血があると見逃してしまうリスクがあります」などと説明した上で、保護者と協議することで、自己決定を尊重した医療につながります。

7. 救急外来からはじまる予防医療

受診する患者の多くは軽症ですが、次に起こるかもしれない重症外傷を防ぐチャンスでもあります。ちょっとした転落であっても、家庭内の家具の配置など、改善できる点があるかもしれません。

日本小児科学会では、Injury Alertを公開しています。これは遊具や器具などで起こった事故情報を集めたもので、このような情報を普段から集めることで、事故を防ぐように救急外来で指導することができます。

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また、現場により良い知識が届くように、記事を改善しつづけていきたいと考えています。最新論文の追加や加筆修正により、より質を高められる点がありましたら、ぜひAntaa編集部までご一報ください。

8. 参考文献

  1. Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70  PMID: 19758692
  2. Pediatrics. 2011 Jun;127(6):1067-73 PMID: 21555498
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高寺 侑(たかでら たすく)
    ■■小児科専門医/エディンバラ大学大学院小児救急医学課程(2018年9月から)/総合病院国保旭中央病院小児科非常勤医師/一般社団法人こどものみかた会員
    ■■分担執筆HAPPY!こどものみかた 日本医事新報社, 2016小児症候学89 原著第2版, 東京医学社, 2018
 

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