2018/09/22

Trousseau症候群(トルーソー)〜定義, 頻度の高い癌, 診断(Dダイマー), 治療〜

 

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藤川達也 (ふじかわ たつや)
    ■■三豊総合病院総合診療内科・代謝科/日本内科学会総合内科専門医/日本消化器病学会専門医/日本糖尿病学会専門医
    ■■三豊総合病院は研修医が学会発表、論文執筆をする機会が多くあります(2017年度pubmed収載雑誌35論文掲載)。日々、AntaaQAのようなdiscussionを研修医としながら症例に取り組む毎日です。

しばしば経験する担癌患者さんの脳卒中. Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐんを疑う場合, どのように対応するのでしょうか.

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Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐん〜定義, 頻度の高い癌, 診断(Dダイマー), 治療〜

Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐんの診断基準について調べているのですが、uptodateやgoogleや論文検索など見ても、中々見つからずに困っています。

特に気になっていることとしては、凝固異常や血小板数は正常なこともあると言われているが、診断基準に入っているのか?心エコーや下腿エコーは、診断の一助となるのでしょうか?

初期研修医

 

放射線科的な観点から「Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐん 腫瘍による凝固能亢進によって脳卒中症状をきたす病態」と理解してます。

腫瘍による凝固亢進によって血栓化は至るところで可能性があると思うので、心臓で出来て頭に飛んでも、脳の微小血管に直接出来ても、下肢静脈に出来てPFO(卵円孔開存)介して頭に飛んでもいいと思います。なので心臓とか下肢の血栓の発見にはエコーが有用と思います。実感としてはあんまりこれらの部位にはっきりした血栓がないことが多いような気がします。

画像的には

  1. 脳血管の支配域と異なる MCA皮質枝梗塞やLSA、傍正中などの代表的ラクナ梗塞の領域とは異なります。
  2. 前方循環と後方循環両方
  3. 両側性

です。

放射線科7年目

short case reportを書くときにいくつか文献にあたった限りでは診断基準は見つかりませんでした。

CMAJにも明らかな定義はないが、と記載されておりあらゆる腫瘍(ムチン産生性腫瘍が多いが)に関連する過凝固がもたらすというようにやや漠然としたもののようです。

(DVTなどが関連すると定義づけられることもあるようですが) そのためlabo dataは参考になりにくいのかもしれません。

総合診療科20年目

消化器内科として経験から

やはり進行癌(特に腺癌)のある患者で比較的小さな梗塞が両側に多発していたらTrousseau症候群トルーソーしょうこうぐんかなと思います。他の脳梗塞と梗塞像の違いが比較的明確なことや進行癌患者に限定されることから臨床的にあまり診断に困るケースはないように思います。(なので診断基準がないのでしょうか?)

一連の病態で脳梗塞が初発症状だとすぐに診断がつきづらいと思いますが、進行癌の中でもかなり進行したケースに起きることが多く、癌の診断がすでについている患者に発症することがほとんどだと思います。

既述の通り病態が進行癌に伴う凝固能亢進なので全身の血栓スクリーニングを行います。

採血異常については、他の血栓症と同様にDダイマーを診断や治療効果判定の参考にしますが、他の凝固異常については一定の見解はないと認識しておりDICが併発していないか確認する程度のものと考えてます。

ちなみに治療はヘパリンと原病の治療ですが予後はかなり悪いです。ヘパリン以外の抗凝固薬/抗血栓板薬(Wf/NOACなど)は増悪抑制効果のエビデンスがないようです。

ただ実臨床では内服に切り替えることも多く、その場合Dダイマーの推移を見ながら慎重に切り替えます。

消化器内科7年目

Dr. Fujikawaの “ポイントレクチャー”

ここではTrousseau症候群トルーソーしょうこうぐんに関する病態やどんな癌に多いか、Dダイマーを手がかりとする診断、ヘパリンを中心として抗凝固療法について解説します。

三豊総合病院 総合診療内科(研修医担当) 藤川達也(Fujikawa Tatsuya)

(1)担癌患者での血液凝固障害 –Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐん

皆さんはTrousseau症候群について聞いたことがあるでしょうか?

時々、症例検討会をしていて高血圧症や糖尿病、心房細動などの脳梗塞発症リスクを持たない患者さんに急性期脳梗塞を認めることがあります。しかしその症例が担癌患者であった場合、誰かがふと「トルーソーでは?」とつぶやく光景を目にします。

簡単に言うと「癌によってもたらされた凝固障害(1)となりますがもう少し詳しくおさらいしてみましょう。

Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐんの国際的な定義として定まったものはないようですが(2)

悪性腫瘍に関連する血液凝固障害、あるいはそれに起因する動静脈血栓症全般を指すことが多いようです(1)。一方、本邦では悪性腫瘍に脳卒中を合併する病態がTrousseau 症候群の疾患概念として提唱されており、その特徴として多発梗塞であること、DIC を合併することが挙げられています(3) (4)

凝固能亢進に伴う血栓・塞栓症という点では、国際的に認識されている Trousseau 症候群と本質的には同様の病態と言えます。

(2)担癌患者の死因第2位

ある報告では癌患者の死亡原因として、Trousseau症候群は癌そのものによる死亡の次に多い原因としてあげられる程であり癌患者の予後を左右する病態とも言えます(5)

(3)膵癌、胃癌、肺癌、卵巣癌、乳癌に多い

Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐんの原因となる癌はとりわけ膵癌、胃癌、肺癌、卵巣癌、乳癌などムチン産生腫瘍が原因となることが多いと言われています(1)(4)(6)

<図1>Trousseau症候群の原因になったと考えられる乳癌(mucious carcinoma)[文献(6)より引用]

なぜムチン産生が凝固障害をもたらすかと言えば、血中のムチンが白血球に発現するL-セレクチン、血小板に発現するP-セレクチンという接着分子に作用してトロンビン産生を介さずに血小板凝集をもたらすことがメカニズムの一つとして考えられています(7)

つまりTrousseau症候群トルーソーしょうこうぐんは癌の発生臓器、病理型に関連することに注意が必要で、逆に言えば原因不明の脳塞栓症を見たら上述した臓器などの癌の存在を疑う必要があります。

(4)診断は難しいが手がかりはDダイマー

Trousseau症候群の診断はしばしば難しいものですが、原因となる進行癌に発症する潜在性の脳梗塞はDダイマー活性が上昇することが多く診断の参考になることがあります(8)。ただ、担癌患者では 30~90%に Dダイマーの上昇を認めることも事実であり脳梗塞の原因と結びつけることに異論もあります(9)

Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐん脳梗塞の病型としては非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)による心原性脳塞栓症が最多とされています(9)。心臓超音波検査、特に経食道心臓超音波検査で心原性脳梗塞や心内膜炎、卵円孔開存症に伴う奇異性脳梗塞などを、更には血液検査などで膠原病や凝固異常をきたす疾患の合併を鑑別することが重要です(10)

画像検査ではMRIで皮質性梗塞や穿通枝梗塞が混在すると、通常の脳梗塞では起りにくい小脳や大脳の分水嶺にもみられる多発性の脳梗塞となることが多いという特徴があります(11)(12)

<図2>図1の患者に発症した脳梗塞。図2以外にも多発性に急性期脳梗塞を認めた。[文献(6)より引用]

(5)DICの治療に似ているTrousseau症候群トルーソーしょうこうぐんの治療

Trousseau症候群の治療は原因となる癌の根治的な治療が大切であることは

言うまでもありません(4)(6)。その意味ではDICの治療において原因となる疾患の治療が優先されることと似ています。しかし根治的治療が難しい進行癌から発症したTrousseau症候群もしばしばみかけますし、むしろそのほうが多いのではないでしょうか。

薬剤による治療として抗凝固療法の適応があり、ヘパリンが第一選択 となるが長期化する場合には低分子ヘパリン やヘパリノイドの皮下注も有用とされています(4)(6)(9)(10)

他の抗凝固薬としてワルファリン、直接経口抗凝固薬がTrousseau症候群を抑制しうるか否かはまだ十分なエビデンスがあるとは言えません(9)

Trousseau症候群トルーソーしょうこうぐんの代表である NBTE に対してヘパリン投与の中止,ワルファリンへの切り替えで再発し、致死的状態になる例はこれまで多数報告されており(9)(12)(13)(14)ヘパリンの有する強力な薬理学的作用が存在することを証明しているとも言えます。

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6. 参考文献

  1. Blood. 2007 Sep 15;110(6):1723-9.
  2. Palliat Care Res 2015; 10(2):523‒6.
  3. 神経内科 2003; 58: 463‒7.
  4. 日内会誌 2008;97:1805-08
  5. Jpn J Clin Oncol. 2016 Mar;46(3):204-8.
  6. BMJ Case Rep. 2017 Mar 7;2017. 
  7. J Clin Invest. 2003 Sep;112(6):853-62.
  8. Springerplus. 2015 Mar 25;4:141.
  9. 脳卒中 2015; 37: 395–402
  10. 日呼吸誌 2012;1:363-7
  11. 日臨外会誌2013;74:1909-13
  12. Medicine (Baltimore) 1977;56:1–37
  13. Am J Med 1985;79:423–30
  14. Am Heart J 1987;113:773–84
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藤川達也 (ふじかわ たつや)
    ■■三豊総合病院総合診療内科・代謝科/日本内科学会総合内科専門医/日本消化器病学会専門医/日本糖尿病学会専門医
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